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時々、とても座り心地のよい椅子に出会うことがあります。腰掛けた時、椅子にカラダがしっくりと馴染んでリラックスできます。座面の高さがちょうど良くて、背もたれの角度が正しく設計されていて、背中から腰にかけてすっぽりと椅子に収まるからずっと座っていても疲れません。椅子の肘掛けは両腕が自然に置ける位置にあって、肘掛けの素材は温かみが感じられる木製だと、手のひらも心地よく感じます。


心地よい空間

先日も座り心地のよい椅子を見つけました。その椅子は、築350年の長い歴史を刻んだ旅館の中にありました。太い柱や梁が印象的な山形座瀧波です。ゆったりと広い板張りの床
に椅子が展示されていました。一脚の椅子が置かれているだけで、その空間が一気にリラックスしたムードになります。北欧の洒落たセンスと和を感じる広間が素敵な雰囲気をつ
くり、ゆるやかな時間が流れていました。椅子に腰掛けるとカラダが包み込まれるような安心感があります。こんな座り心地のよい椅子なら、長編の映画も小説も疲れることなく楽しめそうです。

上質な手触り

ほっそりとしている椅子の肘掛けと脚は、無垢材のブラックウォールナットを使用しています。立体的な彫刻作品のような3D 曲線に削り仕上げたデザインが印象的です。手に自然と馴染む肘掛けの形と細さが絶妙で、触れると木材ならではのぬくもりを感じます。木目も色も綺麗に揃っていて、一本の木から製材して天然木ならではの色のバラツキを抑えて均等に仕上げているそうです。「この椅子の木部は丁寧にオイル塗装で仕上げていますので使い込むほどに艶が出てきますよ。」と、この展示を企画した須藤修さん。しっとりと仕上げられた肘掛けは思わず腕を滑らせたくなります。この椅子はデンマークの建築家で家具デザイナーのフィン・ユール氏により、80年前にデザインされた45CHAIR です。今でも世界中にファンがいるそうです。

木工技術

椅子をじっくりと見ると木の接合部分は精密で繊細なデザインの為に極限まで研ぎ出されていて木工技術の高さが伺えます。「このディティールを実現するために実は日本の木工技術が関わっています。この椅子は北欧でデザインされ、山形県の木工所で制作しています。」デンマークと日本のコラボレーションにより完成している事を知り、改めて繊細な
パーツを見入ってしまいました。


高い技術により製作された木部

ずっと使う

須藤さんはこれまで森や山と人との新たな関わり方を考えるプロジェクト「YAMAMORI PROJECT」や空間プロデュース、家具のリペアも手掛けています。須藤さんに家具
の修理について伺うと「椅子のリペアは座面の張り替えが多いですね。椅子の木部にキズがあることもありますが、子供のころから長く愛用している椅子も多く、キズが思い出でもありますので、敢えてキズを残すこともあります。」たしかに良い椅子は長く使っているし、飽きないし、座り慣れた椅子は離れがたい。キズもつくことがあるけれど、それも味わいとなって愛着が増していくことでしょう。


曲線的なデザインが特徴の肘掛け

椅子から始める

椅子選びは座り心地のよさも機能性も耐久性も大切な要素ですが、部屋に一脚置くだけで空間の雰囲気が大きく左右されるアイテムでもあります。気に入った椅子に出会ったら、椅子に合った部屋の広さや内装を考えてみてはいかがでしょう。お気に入りの椅子との暮らしをイメージして床や壁、窓の位置やカーテン選びも迷うことなく決められそうです。「椅子選びから始めるリフォーム、リノベーション」という逆算で考える家づくりもアリかもしれません。


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