リフォーム・リノベーション専門雑誌「プランドゥリフォーム」に掲載中のコラムのウェブ版です。
空が高く、秋が深まる季節になると公園や街路樹にハート型の落ち葉が落ちていることがあります。乾いた茶色の枯葉は、遠くからでもわかるくらい甘い香りを放っています。砂糖を焦がしたクリームブリュレのような、綿菓子にも似たとても甘い香りです。
この甘い香りの葉をもつ木は「カツラ」という広葉樹で日本特産の木です。若い葉は丸い形をしていて成長するにつれハート型の葉になります。春から秋にかけて木にはたくさんのハート型の葉が育ちます。緑色の葉は香りがありません。落葉して葉が茶色に乾燥すると香りを放ちます。カツラの葉は抹香の原料として使われていたそうです。
カツラは北海道から九州まで広い範囲に生育しています。太さは2メートルに達する大木になります。樹齢数百年という古木も各地に存在します。木の周りにひこばえのような株をいくつも作った巨木は公園で見るカツラとは違う迫力があります。
木材としてのカツラは2つのタイプに分かれます。一つは色が濃く、心材が赤みを帯びたカツラで「ヒガツラ」と呼びます。もう一つは淡い色をした「アオガツラ」です。ヒガツラとアオガツラは材質が異なります。ヒガツラは狂いが少なく、材質が均一です。反りにくく、加工しやすいことから様々な材料に使われてきました。将棋盤や碁盤はカツラが使われます。鏡台など家具にも使います。和裁の裁断板やまな板、鎌倉彫、木彫り看板、能面、漆器の木地など調度品から生活道具までカツラ材が使われています。
北海道日高地方はヒガツラの産地です。沙流川、厚別川、新冠川の上流地域は特に良質材の産地として知られています。現在は産出量は減っています。
先日、国産材で注文家具を作っている工房のオーナーからヒガツラを使ったダイニングテーブルの話を聞きました。お客様の家にあったヒガツラの裁断板を削りなおして作ったテーブルです。奥行90センチほどの天板で、ヒガツラの赤みを帯びた色がきれいなダイニングテーブルです。裁断板の奥行きはだいたい40センチ程度ですから両側にタモ材を幅剥ぎしています。オイル塗装で仕上げた天板は色や木目が自然でとてもきれいです。
裁断板など昔の物は材質が良いことも多く、新しい物に作り替える事ができます。合板は切る削るが容易にはできませんが、無垢材なら削れば新品のような木肌になりますし、幅が足りなければ幅を剥ぐことができます。
これからの時代、不要になったら捨てるのではなく、リユースできる素材かどうかも物を選ぶ時の選択のひとつになるのではないでしょうか。無垢材は作り替えができますし、自然原料の塗料等を使えば土に還す事もできます。捨てない暮らしが当たり前になると、技術を持った職人が各地に増えていくかもしれません。
いろいろな技術やアイデアで捨てるのではなく活かすことで次の時代へと良質な木を残し、ものづくりの技術も受け継がれていくように思います。
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