リフォーム・リノベーション専門雑誌「プランドゥリフォーム」に掲載中のコラムのウェブ版です。
日本の木材の中で、濃い色の部類に入るのが胡桃(クルミ)の木です。
あたたかみがあって、少し暗めの色をもつ胡桃は、家具やフローリング、木の器やカトラリー、木彫など、幅広く使われています。フローリングに胡桃の木を使うと、胡桃の主張し過ぎない自然な濃色により部屋全体が落ち着いた雰囲気で、インテリアが映えるように感じます。
天井や壁は、明るくて清潔感がある白い色が好みだけれど、フローリングは、家具やテーブルが映えるように、少し濃い色にしたい、着色するのではなく、素材そのものの色をいかしたいという方に、胡桃の木はおすすめです。
胡桃の木は、鬼胡桃(オニグルミ)というのが正式です。英語名をウォールナットといいます。家具などに人気のある北米産のブラックウォールナットと同じクルミ科の木です。鬼胡桃は、それよりも柔らかく、触れるとあたたみがあり、やさしく感じられます。胡桃は、ブラックウォールナットより控えめな色で主張しすぎず、自然な色あいで、落ち着いた感じがします。
胡桃の持ち味のひとつは、表情が豊かなところだと思います。濃い灰褐色の木もあれば、茶褐色がかった明るい色の木もあり、様々な色をしています。木目の表情もいろいろで、木目が波打っていたり、直線的な縞模様だったり様々です。印刷して木に似せた木目調のフローリングと違って、個体差が大きい胡桃は、広い面積に使うと、いかにもほんものの木らしい表情が魅力です。
木は反ったりねじれたりしますが、胡桃の木は、その狂いが少ないといわれています。柔らか過ぎず、硬すぎず、適度な粘りもあります。そのため、切る、彫るなどの加工がしやすい木です。磨くと自然な光沢がでるので、仕上がりが良く、木材として胡桃は優秀です。
胡桃は、ナッツとして、また食用油としても利用されます。胡桃油は、食用以外にも、木材のメンテナンスにも使います。胡桃油を布につけて塗ると、木の表面を保護し、自然なつやがでます。食用なのでカトラリーや木の器など口をつける物のメンテナンスにも安心して使えます。胡桃油は、食用油の中では乾きが早いので、使いやすいオイルの一つです。速乾性が高いオイルは、胡桃油のほかに、エゴマ油があります。
胡桃を割り、中身を柔らかい布に包んで、布の上から叩いてつぶします。しばらく叩くと、胡桃油が染み出てきます。
油が染みた布で木の表面を磨きます。胡桃油がうっすらと皮膜を作り、自然な光沢が出てきます。胡桃の実1個でカトラリーなど小物なら結構な数をメンテナンスできます。スプーンや箸の表面が白っぽくなり始めたら、胡桃油を染み込ませた布で磨き、乾いた布で拭き、乾かします。光沢が出て、見た目もきれいになり、胡桃油が木を保護するので長持ちします。
国産の胡桃は流通量が少なく、輸入材が多いようですが、胡桃の木は、日本各地で自生しています。胡桃は、実を食べてもおいしい、木に触れても気持ちよい、身近な木のひとつです。主張しすぎない濃いめの色、硬すぎず、柔らかすぎない材質、自然な光沢など、どれをとってもちょうど良い。胡桃の魅力は、「ちょうど良い」ところなのだと思います。
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作家・エッセイストの千石涼太郎さんのエッセイ
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