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 物心ついたときから釣り竿を握っていたわたしは、小学校に上がってからは、ちょっとでも時間があると釣りに出かけた。海水浴シーズンなどは、まだ明るいうちから暗くなるまで海にいるのがお決まりで、朝夕は釣りをして、昼間は海水浴を楽しんだ。
 夏休み、そんな生活を続けていると、学校がはじまっても、しばらくは海に行かないとおさまらない。日曜ともなると、釣り竿とおにぎりを持って朝早くから海に出かけることになる。
 毎朝、母に何度おこされても「あと五分」といっては、なかなか起きない子供が、釣りに行く日は、ちゃんと自分で起きる。まったくゲンキンなものだが、なぜか目が覚めるのだから、こればっかりは仕方がない。
 父とふたり、自転車に乗っていざ砂浜へ。「エラコ」というゴカイやミミズのような環形動物を餌にしたり、サンマの切り身を餌にしたりして、カレイを狙うのだ。
 竿立ては職業訓練校の板金科の指導員をしていた父が、職場で作ってきたもの。サンマを切るナイフも、父が車の板バネをたたき、グライダーで削って作ったもの。釣りに使うオモリも、鉄くずのような錆びた鉄筋を切って穴をあけたもの……というなんとも不思議な装備だったのだが、なんだかんだと魚が釣れた時代だった。


 魚は朝まずめや夕まずめといわれる日が昇ったり、沈んだりする時間によく釣れるので、いつも暗くなってから家に帰るのだが、帰る直前に何匹も釣れ、まだカレイがバタバタ動いているうちに、家についたことがある。
 台所にいる母に魚をあずけ、父とわたしはお風呂でリールを洗いつつ、体も洗う。風呂上がりで、さっぱりして「いい気分!」ということで、父は茶の間でビールを飲み、わたしは麦茶を飲んで、いい気分。


 そこに、台所から悲鳴が……。「やだ〜! 生きてるじゃない」
 台所を覗き込むと、床に落ちたカレイがバタバタと暴れている。どうやら、包丁を入れようとしたら、急に暴れだしたようなのだ。
 掌ガレイは、煮付けや唐揚げにするけれど、二匹ほどちょっと大きなカレイが釣れたので、刺し身にすべくさばきにかかったら、びっくり! 料理上手だった母も、さすがに生きている魚をさばいたことはないらしく、姉とふたりで、大騒ぎとなったのだった。
 それでも、なんとか頑張って、食卓にカレイのお刺し身が登場。四〇年以上も前の話なので、味の記憶はまったくないのだが、食感がいつも食べている刺し身とはかなり違って、しっかりしていたことだけは覚えている。
 釣れた日の夕食タイムは、父とわたしの「釣った魚自慢タイム」。姉や母はきっとうっとうしく感じていただろうことは、想像に難くないけれど、当時のわたしも、酔った父も、まったくそんなことは考えず、延々と、どんなアタリがあって、どれだけ強い引きだったか等々、釣りをしない人には、どうでもいい話しをいつまでも、繰り返し話したのだった。
 食卓の上の片づけが終わり、一息つくと、わたしはおもむろに釣り道具を整理しはじめる。なくなった分だけ仕掛けをつくり、竿を拭き、また来週の釣りに想いを駆せる。「今度は、もっとさばきやすい、大きな魚釣ってきなさ〜い」という母の注文に「来週はもっと大きいのを釣ってやる!」と思うのだった。
 結果は毎週、同じようなサイズしか釣れず、煮付けや塩焼きになる運命だったけれど、いま思うと、それもお袋の味だった。釣った魚を母に料理してもらえたことは、幸せなことだったと、いまになって有り難く思う。


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